食品中の放射性物質について食品衛生法上の基準値がとりまとめられ、平成24年4月1日から施行されます(厚生労働省のサイト)。
厳しい基準が設定されるのは安全に繋がるので良い事だと思うのですが、計測器にはそれを測定できる性能が求められます。もちろん厳密な計測については、専門の機関に依頼してゲルマニウム検出器で測定してもらう必要がありますが、スクリーニングを行いたい場合、測定器にはどんな性能が求められるのか?
確認しておきたいと思います。
スクリーニングとは?
「食品中の放射性セシウムスクリーニング法(厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課の資料)」
にスクリーニング法が解説されています。この資料によると、
「スクリーニングの結果、放射性セシウムが暫定基準値よりも確実に低いと言えない検体は、緊急時マニュアルに規定されたゲルマニウム半導体を用いたガンマ線スペクトロメトリーにより検査結果を確定するものとする。」
とあります。 つまり、スクリーニングとは
「精密な測定を要する怪しいものと、絶対に安全なものを確実に選別する」ことですね♪
では、測定器にはどんな性能が求められるのでしょうか?放射線の崩壊は揺らいでいるので常に違った計測値が観察されます。「確実に低いことを示す」にはどうすればよいのでしょうか?
上記の資料には
「スクリーニングレベルにおける測定値の99%区間上限が規制値レベルで得られる測定値以下であること。」
とあります。資料の最後に計算方法が記載されていますので、実際に計算してみたいと思います。
検出限界について
検出限界は、バックグラウンドが大きく影響するのですが、ここではとりあえずバックグラウンドを無視して、計測で得られたデータの取り扱いのみ考えてみたいと思います。
全放射能の p (%) を検出可能な計測器で、A (Bq/kg) の試料 を t (min) 計測して N (カウント)を得たとします。このとき、
計数率は
[tex]N/ t \text{_{(cpm)}}[/tex]
測定値は
[tex]60n / p \text{_{(Bq)}}[/tex] となりますね?
この時の標準偏差σ は、
[tex]\sqrt{N}/t \text{_{(cpm)}}[/tex]
信頼区間の上限値は
[tex]n + 3.29\sigma\text{_{(cpm)}}[/tex]
ですので、
[tex]60(n + 3.29\sigma) / p \text{_{(Bq)}}[/tex]
となります。
これだけだとちょっと分かり難いので、スプレッドシートで具体的に計算してみました。
「全放射能の 2.5 (%) を検出可能な計測器で、48 (Bq/kg) の試料を 30 (min) 計測して 2160 (カウント)を得たとき」の計算を行っています→ 「検出限界の計算」(GoogleDocs)
※どなたでも編集できるハズですので、おかしなところがあったら修正シートを追加して頂けると嬉しいです^^
計算してみると、基準値が50Bqだと、この計測器での30min間の計測では試料の放射線量は確実に基準値よりも低いとは言えない事になります。
44minの計測を行うと、信頼区間の上限値は49.9Bq となります^^
また基準値が10Bq の場合は、65minの計測時間を要して 9.99Bq となります。
統計的に有意な数値を出すには、とにかくたくさんのカウント値が必要で、そのためには検出率が高いか、時間をかけるかのどちらかが必要と言う事になります。ここに仮定した2.5%の検出率は、BGOシンチ(17,000mm^3)+PMTの遮蔽容器内での基準線源の計測時の検出率で極端に低い数字ではありません(uSv/h ⇔ cpm 換算係数= 18500 )。
これにバックグラウンドの影響が加わってきます。
検出限界とバックグラウンドについては、ここ→ 「検出限界の考え方」が参考になります。
近 況
いやはや、放射線統計学とか…学生時代の不勉強のツケが廻ってきています(笑)
それと、スペクトルのデータからカリウムとセシウムを上手に分離する処理ががが…><;
測定器の方は、スクリーニングの資料にもちょっと記述があるウェル型の開発をしています。
こんな形→「ゲルマニウム検出器」
リンクのものはゲルマですが、この形をBGOシンチでトライ中です。
なにしろ、既存のマリネリ容器を利用する測定器では試料が大量に必要な割に、以前の記事で計算したように、近接効果の為に試料を増やしたところで、さほど検出率を上げることができません。逆に、少量の試料でも封じ込めてしまえば数十倍の検出率にできますので、30cc程度の小さな使い捨ての試験管で計測できるものを試作中です。マリネリ容器よりジオメトリも安定するので、測定誤差が小さく出来ます♪
それと、もうひとつ・・・
浜松ホトニクス製の検出ユニット(C12137)を利用した測定器を試作しました。
さすがに、電源・チャージアンプ・USBインターフェースまで本家が内臓したモノだけに高性能です(笑)
次回は、C12137 を使って行った実験についてレポートしたいと思います。
では、また♪