食品用放射線測定器をつくる(その1)


はじめに:

 原発事故によって放出された放射能による食品の汚染が問題になっています。

 食品の安全性については、検査機器の絶対数が不足していて全量検査出来ない為に国の施策は後手厚生労働省資料(8/31)のデータでは東京の流通品牛肉から1200Bq/kg が検出されている。
食品の放射能暫定基準値の是非にいろいろな意見があるのは、「影響がはっきり分かっていない」から(参考映像)。

そこで!
自衛のために食材の放射線量を測りたいわけですが・・・

どうすれば個人レベルで検出できるか?

「食品用放射線測定器」の開発を行いながら、検証してみたいと思います。


検出方法:

 放射能汚染といっても放射性物質は多様で放射する波長も違うでしょうから、全てを網羅することは現実的ではなさそうです。そこで主な汚染物質である、セシウム137)をターゲットに開発します。ここでは、センサーの開発も行ってみたいと思います。

 半導体による放射線の検出原理がATOMICAの「環境放射線の測定法」ページに載っています。原発事故のあと、放射線計測器の需要が高まりGM管の入手が困難になっていますので、ここでは安価であり、入手が容易なPINフォトダイオードを使うことにします。

 参考資料 ⇒ 放射能測定法シリーズSiPINPhotoDiode回路例


環境放射線量の問題:

 空間線量計はこんな低価格のものも開発されているようです ⇒ ポケットガイガー
(計測データが公開されているので、比較のため購入しました。後日レポート致します)

このポケットガイガーのような安価な線量計で食品の汚染を検出できると良いのですが、バックグラウンド(環境放射線)のノイズがある為、難しいようです↓

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 要約すると・・・

環境放射線量が大きく変動しているうえ、検出したい試料(食品)の放射線量がその1/10と小さく、
埋もれてしまって計測できない。映像では一番左側の試料から検出が出来ない事を示していて、
これは暫定基準値の10倍以上の5300Bq/kgの汚染きのこ31g(=164Bq)。

 真夏の太陽の下で豆電球の明るさを測るようなものです♪

 空間線量が一定の値の範囲で変動しているのであれば時間をかけて計測して平均をとることで、ある計測環境における空間線量が算定できるかもしれません。しかし平均自体が時間とともに変化するので、相対的に微弱な食品からの放射線量を計測することは無理だと思われます(一時間かけて空間線量の平均をとったとしても、次の一時間の平均が同じとは限らない)。


計測環境:

 食品の放射能汚染を測るには、豆電球の明るさを正確に測るのに暗室が必要なのと同じように、
環境放射線を遮蔽できる容器を作り、その中で測定する必要があります。

では、どんな容器を作ったら良いのでしょうか?


 この図を見ると、鉛を使ってα、β線を遮蔽、γ線を減衰できることが分かります。
次に、鉛の厚さはどれくらいあれば良いか考えてみましょう。

高度情報科学技術研究機構ATOMICA(原子力百科事典)に、このような図表があります↓


 このグラフから、の放出するγ線は5cmの厚さの鉛によって約1/100程度に減衰出来ることが分かります。前述の映像で測定を試みた試料の線量は環境放射線量の1/10でしたので、5cmの鉛で遮蔽した箱の中で計測すれば、その比率が逆転するので検出できそうです。厚いほど良いのですが、重くなるのでどこかで妥協しなければなりません。


検出精度:

 精度は重要かつ最も難しいところですが、とりあえず国(厚生労働省)の定める緊急時における食品の放射能測定マニュアルのP.35 別表3 にある値(いわゆる暫定基準値)を検出できないと話になりません(?) 。
これによれば、食べ物で500Bq/kg、飲み物で200Bq/kg となっています。
(こんな感じ↓)

 これは、通常の環境放射線量(0.05μSv/h)と比較すると、1/100程度の放射線量です。さらに、「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」では下限検出値を 20Bq/kg (※判定値の1/10)としていますので、これを上回る精度が理想です。(※これ以上では統計的に有意な数値とならないから)

 例えば、0.05μSv/h程度の空間線量の計測時に2cpm 程度の感度のセンサー(ポケットガイガー程度)で、その1/100程度の線量しかない食品の線量を測る時、統計的に有意な値を得るには膨大な時間を要します。例えば、±10%の誤差率の値が欲しければ、±σ=√N なので N=100 が必要となります。センサーの検出能力が 0.02cpm なら・・・100カウントを得るのに 5000分を要する計算です。したがって、食品の放射線を1時間程度で測るには、0.01μSv/h において300~400cpm が必要です。

 もうひとつ問題が・・・。食品にもともと含まれるカリウム に含まれる K40 の放射線をCs-137と区別するにはスペクトルをとる必要があるので、エネルギースペクトルをとることが出来なければならず、統計的に有意なスペクトルを得るには更に多くの信号を検出しなくてはなりません・・・(笑)

 ここに Bq/kg という単位が使われていますが、これは「1kgの試料に含まれる放射性物質が毎秒1回崩壊し、
それに伴って放射線を放出している」状態を1としたSI単位系の単位です。つまり、放射能(放射線を放出する能力)
の単位で、崩壊によって放出される放射線をカウントすれば求めることが出来ます。
Bq が放射能そのものを表すのに対して、Sv(シーベルト)は放射線を受けた時の影響の大きさを表すもので、
放射線の強さや種類や透過度を考慮して算出されます。

放射線遮蔽容器:

 センサーの能力と同じように、計測環境となる放射線遮蔽容器の性能も重要です。
ここでは、製作が容易なように、茶筒のような形状に設計してみました。サイズの異なる鋼管を二重に配置して、隙間に鉛を溶かして充填します。放射線遮蔽容器は大きい方が試料がたくさん入るので、検出には有利なのですが・・・。
さすがに鉛は重いです! (比重11.6)
 内部径≒100㎜、高さ=125㎜、鉛の厚さを50mmとしたとき、総重量84.5kg になりました。
蓋と本体を分ければ・・・どうにか一人で運べる(?)・・・重さです。

(資料:他の物質の遮蔽能力についてはIAEAのデータの P.90 を参照してください。この資料では各種放射線を1/2に遮蔽するために必要な厚さが、鉛・鉄・アルミ・水について掲載されています。地域別の空間線量率は文部科学省が行っているモニタリングのデータをご覧ください。)

想定する使い方:
 1.遮蔽箱の中に、センサーのみを入れて測定する(箱の中の内部放射線量を測る)。
 2.遮蔽箱に試料を入れて測定する。
 3.1と2の測定データと校正用データから汚染濃度を計算する。


試作:

 遮蔽容器。
(こんな感じ↓)
遮蔽容器製作図
容器材料
インゴット


 製作した遮蔽箱は、鉛の厚みが「45.2mm + 鉄の厚みが12mm = 57.2mm」です。鉄の遮蔽力は前述のIAEAの資料によると鉛の約半分程度ですので、鉛に換算した厚みではちょうど50mmになり、試料の放射線量を測定するできる環境を作れそうです。

センサーはハード屋さんに依頼。
(こんな感じ↓)
開発中センサー

 ランラン用マントルの放射線検出波形
(こんな感じ↓)


校正用試料の準備:

 線量が分かっている基準試料がないと精度の校正が出来ません。
兵庫県立大のサイトの記述から、塩化カリウムで正確な基準線量を作れそうな事が分かりました。高精度なγ線基準線量源になりそうです♪


雑感と今後:

 試作に利用したPINフォトの感度が思ったより低く苦戦中。もっと高感度(大面積?)なものが必要と思われます。余程検出能力の高い(現在の200倍の)PINフォトダイオードを使うか、大きなシンチレータを持つ高感度なセンサーを使わないと、短時間に食品の放射能汚染を検出するのは無理!

 食品の汚染を検出できると称した商品が販売されていますが、環境放射線を遮断せずに計測しても理論的には正しく計測することは出来ません。現在販売されている放射線測定器はあまりあてにならないと思ったほうが良いでしょう(国民生活センター「比較的安価な放射線測定器の性能」)。

 でも、ほとんどの食品は検査されずに市場にあり、精密な検査機器は高額で台数も限られているので・・・
疑わしいものを選別する物や方法はやはり必要であって、そういうものが無いのだから・・・
作るしかないんです。

おかしい点などあれば、是非ご指摘ください!
お気軽にコメントお願いします^^

では、また♪

(つづく)

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食品用放射線測定器をつくる(その1) への4件のフィードバック

  1. みかげ のコメント:

    こんにちは.

    比較的安価に食品を測る方法として,海外で販売されているGS-1100Aという簡易MCAを使う方法があります.
    こちらのブログの方が実際にやられています.
    http://basamablog.wordpress.com/

    ただ,GS-1100Aは作りが簡易的なためか,なかなか綺麗なスペクトルが取れなかったりして,
    上手く扱うには色々工夫が要るようです.
    わたしも購入しましたが,手元の環境ではいまいちな状況でした.
    http://www.mikage.to/radiation/gs1100a.html

    ご参考になれば幸いです.

    • supermab のコメント:

      みかげさん

       情報ありがとうございます♪
      是非 「RadViewer」 もお試しいただき、不足している点など
      ご指摘いただけましたら嬉しいです♪

  2. たれこみ のコメント:

    容器の下の写真のインゴットはホワイトメタル7種か9種で
    鉛の含有量が75%~90%で、鉛の比重11.34に対して10あるかどうかになります。

    • supermab のコメント:

      たれこみ さん。
       はじめまして^^ 情報ありがとうございます♪
      計算値に対して、鋳込んだ時に1割ほどインゴットが余った理由が判りました!
      鋳込み後に上面を研削しても大きな引け巣もなかったので、不思議に思っておりました。

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