放射線測定器を作成して校正作業を行っていると、同じシンチレータを使った正しいスペクトルがお手本として必要になります。各エネルギーでの分解能など、シンチレータとPINフォトやPMTとの光学的な接合状態など組立の微妙な誤差によってズレが生じてくるからです。
そこで、浜松ホトニクス製の完成品を使って以下の実験を行いました。
1.環境の放射線量・基準線源の測定
2.鉛の遮蔽能の測定
3.Cs・K・Th 及び鉛の特性X線のスペクトル記録
検出器について
使用しているのは、浜松ホトニクス製のオールインワン放射線測定ユニット(C12137)です。
(これ↓)
検出器本体とUSBケーブルが付属しています。専用のドライバとサンプルアプリケーションのソースプロジェクトも添付されており、サンプルコードを参照しながら必要な機能を実装していくことで独自のソフトウェア開発が可能です。
さっそく実験してみたいと思います。
環境放射線と基準線源の測定
これまで、基準になる測定器を持ち合わせていなかったので、C12137 を使って自作器の校正をかねて環境線量とCs137 (9250Bq)基準線源を測定してみました。基準線源はセンサーとの距離を変えて計測しました。
(こんな感じ↓)
計測データはこちら→ 比較計測 (GoogleDocs)
線源から50mmの位置で約0.2uSv/h の線量です。地域の空間線量が 0.2uSv/h のところもあるようですが・・・、あらためて恐ろしい数値です。
余談ですが。10000Bq 以上の線源は文部科学省への届け出が必要で、輸入も出来ません。
一方、国はがれきの焼却灰の埋め立て基準値を8000Bq/kg以下 に設定しました。(参照→徳島県目安箱)
基準線源並みの放射能を持つ物質の山が全国津々浦々に出来るって…どうなんでしょう?
この基準では、大多数の自治体は受け入れに反対するでしょうから、非汚染がれきの処分まで遅らせてしまうような気がするのですががが…
鉛の遮蔽能の測定
鉛の遮蔽能は、入射放射線エネルギーが分かっていれば計算で求めることが出来ますが、環境放射線のエネルギーは単一のエネルギーではないので実際に遮蔽効果を計測してみました。
(こんな感じ↓)
※1mmの鉛板を、1周ずつセンサーに巻き付けて線量を計測
計測結果からグラフを描いてみました。
(こんな感じ↓)
計算どおりにならないのがこのグラフから読みとれると思います(笑)
計測データシートはこちら→ 鉛遮蔽能試験(環境) (GoogleDocs)
次に、Cs137 基準線源を使って同様の試験を行ってみました。
(こんな感じ↓)
単一のエネルギーの放射線だと、計算に近い結果になるのがわかります。
(こんな感じ↓)
計測データシートはこちら→ 鉛遮蔽能試験(Cs137) (GoogleDocs)
スペクトルをとる
スペクトルは、環境放射線の影響を排除してクリアなものとするため、50mm遮蔽容器内でデータをとりました。検出部が容器中央に来るよう鉛遮蔽容器に穴をあけて、セットしました(笑)
(こんな感じ↓)
(セットしたところ↓)
(計測の様子↓)
容器内のBG値は、0.0045uSv/h。14時間計測時の 最大値は0.0081uSv/h。最小値は0.0023uSv/h。
標準偏差は0.0011uSv/h となりました。見かけの誤差率が高くなるのは、遮蔽容器内ではカウント数が非常に少なくなり、宇宙線などの入射によるカウント値の影響が相対的に大きくなるからです。ポケガを遮蔽容器内で使った際にも誤差率が大きくなり「どうしてだろう?」と疑問に思っていましたが、考えてみれば当たり前のことですね^^
以下に数種のスペクトルを示します。
Cs137 基準線源:
鉛の特性X線
Cs137基準線源とセンサーの間に、1mm の鉛板を挟んで測定したものです。上のCs137のスペクトルにある32keVのピークが鉛によって遮蔽され、かわりに70keV付近に鉛の特性X線のピークが現れています。
やさしお:
トリタン
トリウムってどうしてこんなにピークがたくさんあるんでしょう???
マントル
※マントルは夜間にデータをとったので、他のものと違い長時間のデータですので、明瞭なスペクトルになっています。
43Bq/kg の福島の土壌サンプル(150g)
513Bq/kg の福島の土壌サンプル(150g)
自作器 + RadViewer のスペクトル
このスペクトルを使って自作器を校正し、土壌サンプルを計測してみました。
513Bq/kg の福島の土壌サンプル(150g)
※音声入力のボリュームを変更しているので、下のものと計測範囲が違っています^^
Cs134,Cs137のピークが分離できていますが、C12137 ほど明瞭ではありませんね^^
やさしお+Cs137 同時計測
Cs137 のピークをみると、C12137 ほどの鋭さがありません…orz
このスペクトルをとった時点では、CsI(Tl)-1000mm^3 シンチを使っていた為、C12137 と比べると時間を要しています。分解能も、おなじCsI(Tl)シンチレータですが自作器の方はCs137とCs134の分離がイマイチですね^^ 電源電圧の安定性、シンチレータの光学的な取付状態、ADCの精度と安定性などが累積して分解能の劣化につながっているようです。 改善点が多々あることがわかりました♪
まとめ
さすがにC12137は精度・安定性共に秀逸です。専業メーカー製なので当たり前かもしれませんが(笑)
で、これを遮蔽容器にセットすると「高性能放射線検出器」のハードウェアが完成ですw
あとソフトで、食品に含まれる[tex]^{40}K[/tex] を減じて正しい線量を算出する処理を実装したいのですが…
アルゴリズムをいくつか考えて、実測し…苦戦しています ><; さあ、どうしましょ?
次回は、読者の方の御厚意でお借りしている、
NaI(Tl) シンチレーション+PMT 構成の「食品用放射線測定器 FW-1」
についてレポートしてみたいと思います。ここでも、[tex]^{40}K[/tex] が…(笑)
では、また♪