食品用放射線測定器をつくる(その5)

 ポケットガイガーによる放射線検出の予備実験で、食品用放射線測定器に必要な条件が分かってきたので、今回から検出器の開発について書いていこうと思います。
 というか…年明けから、ハードウェアの試作とソフトの変更に試行錯誤しては紆余曲折し、なかなか記事に出来るような結論に至らなかったのですが、137Cs基準線源を入手した事で一定の進展をみたので、一旦現状についてまとめておこうと思います。


概 要:

 PINフォトはポケガのようにコンパクトに出来るのが利点ですが、食品の微量な放射性検出には遮蔽容器が必要なのでコンパクトである必要は無く、感度を優先してホトマル(光電子増倍管)を使いました
ホトマルにCsI(Tl)シンチレータを取付け、USBオーディオ経由で信号をPCに出力しています。

 こんな感じ(ビデオ動画)↓
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(※:カメラワークが下手で、ブレてますがお許しください)

 スクリーンショットはこんな感じ↓
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※:最大化してご覧ください。


ハードウェア概説:

 ホトマルの増幅率は非常に大きく(今回使用したものは 2.5×10^6)、OPアンプを使わずに直接PCに出力することが出来ます。

マイク端子に直結した時の波形はこんな感じ↓
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※:ホトマルには高電圧を印加しますので、PCのサウンドボードを焼く危険があります。実験は自己責任でお願いします。

 CsI(Tl)シンチの発光時間は0.6~3.5μs であり、ホトマルの応答は数ns と高速なので、パルスは非常に鋭く、そのままでは正しく検出することが出来ません。PCの音声信号のサンプリング周波数は高いものでも96000Hz程度ですので、約10μs 周期で信号を見ていることになります。サンプリング間に、ホトマルのパルスが3~17個も入る計算です。とはいっても、ホトマルの構造自体がコンデンサですし配線はインダクタンスを持っているので、波形は鈍っており、直結しても上記動画のようにパルスをとることは可能です。

 しかし、音声信号のサンプリング周期に対してパルス幅が狭いので、サンプリング定理からみて波形はデタラメなものとなっています。特に波高については、そのピークが現れるのは一瞬なのでどれだけ高速にサンプリングしても正しい値を得ることは原理的に不可能です。PC画面で表示される波形のピークは、単にサンプリングが行われた瞬間のデータであり、実際のピークではありません。

 これでは、正しいエネルギースペクトルをとることが出来ないので、ホトマルからの出力をコンデンサーで積分します。コンデンサーだけでは電圧が上がる一方ですので放電用の抵抗を並列に入れて適当に放電させてやります。時定数は、実験で波形を見ながら決定しました。
※:サンプリング定理についてはこちらが参考になるかも→サンプリング定理

こんな感じで実験↓
積分時定数の実験

 いろいろな容量のコンデンサと抵抗の組合せから、PCの音声信号サンプリング周波数で正確にエネルギーを求められる幅を持ったパルスに整形できる値を探します。

で…
上記のスクリーンショットのような波形としています。

 パルス幅をどの程度にするかは、実はとても悩ましいところです。
狭いとサンプル数が不足して測定値のバラつきが大きくなるので分解能が低下します。しかし広いと信号が重なって正しく計測出来なくなる確率が高くなります。

入射信号の重なった波形↓
入射信号の重なり


エネルギーは入射信号の面積:

 波高をもってエネルギーを正確に測定することが前述の理由で不可能なので、RadViewer(ver0.5以降) は、エネルギー値を波高ではなく「面積」で計算するよう変更しました。これにより、エネルギー分解能が高くなってスペクトルが明瞭になっています。

137Cs基準線源のスペクトル↓
137Cs スペクトル

 考えてみれば、シンチレータからのフォトンの総量が入射した放射線のエネルギーですから、瞬間的な電圧ではなく積分がエネルギーを正確に表しているのは当然のことですね^^ 


PCの音声信号レベルについて:

 137Cs 基準線源でキャリブレーションしたところ、γ線(662keV)のピークは思ったよりもかなり低い位置にあり(PCのマイク音量を最大にしても30%前後)、この時 40K のピークが70%程度のところですので、センサーの出力をもう少し大きくした方が、137Cs 周辺のパルスを正確に測定出来そうです。
 波形整形する前にとったスクリーンショットを見ると、なんと2.5倍も広い範囲を見ていたことが分かります(泣)。

こんな感じ(クリックで拡大)↓
スペクトルの範囲


まとめ:

 いやはや一月は、ハード・ソフト共にいろいろ作りました。

 ハードは凝ったことをするとキリがなくなり、永遠に完成しそうもなかったので・・・
「食品に含まれる微量なセシウムを検出する」という目的の達成に最低限必要な構成としました。

1.シンチレータ + 2.ホトマル + 3.高圧電源 + 4.波形整形回路 の4つです♪

1.シンチレータはCsI(Tl) の10x10x10mmを使っていますが、ホトマルとの組合せではもう少し短波長のものがマッチします。BGO やプラスチックシンチが適しているかもしれません。シンチレックスはま~だ発売されませんね~。

2.ホトマルの新品は結構高額ですが中古品だと数千円で出回っています。構造的には傷むようなものではなく、適正な使用条件での寿命は10^6時間と(浜松ホトニクスの資料による)、とてつもなく長く…20年位の使用ではまだまだ新品の領域です(笑) 

3.ホトマルは印加電圧の二乗に比例してゲインが増大するので、印加電圧の安定性が重要です。
当初は、「写るんです」のストロボ電源に3Vを供給して実験していましたが…(笑)

こんな感じ↓
「写るんです」のストロボ電源

 電圧が安定しないために分解能が非常に悪く、専用の電源を自作することに…
「CMOSインバータで方形波を作って、昇圧トランスをMOS-FET プッシュプルで駆動し、倍電圧整流したあと平滑」という構成です。ただ、平滑が不十分で、高周波成分が取り切れていません。電源の安定が、エネルギー分解能には重要な要素ですので、まだ改良の余地があります。

4.波形整形回路は、前述の通りコンデンサと抵抗だけです。OPアンプを使わない事で、OPアンプ由来のノイズが混入しない利点があります。無いのが、最もシンプルですからね(笑) 

あとは、ソフトで処理します♪

というわけで、次回は RadViewer のバージョンUP(ver0.5)について書くつもりです。

では、また♪


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食品用放射線測定器をつくる(その5) への2件のフィードバック

  1. tokoyoda のコメント:

    はじめまして。
    私もシンチレータ+フォトマルで放射線の波形がとれるようになったところなのですが、連絡を取り合っている方からこちらのサイトを教えていただきました。
    すばらしいですね、分析方法に感心させられます。
    ところでサンプリングの話ですが、PCを使った約10μS周期というのは限界がありますよね。フォトマルでパルス幅が狭いのをコンデンサで積分したりしてハード的に10μ以上にしても結局10μS以内に数発パルスが発生したら取り込めませんものね。その辺はPCでサンプリングしたときの誤差の範囲と考えるしかないと思います。
    今度、RadViewerを使わせていただきたいと思います。
    私はウィンドウズのソフトは組めませんので夢のようなソフトに見えます。(^^)
    また、ちょこちょこよらせていただきたいと思います。

    • supermab のコメント:

      tokoyoda さん、はじめまして^^

       ご覧いただきありがとうございます♪
      校正はなかなか大変ですよね~。四苦八苦してるところです><;

      良い情報があったら教えてくださいね^^

      あ…早くバージョンアップの記事を書かなくては(汗

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