食品用放射線測定器をつくる(その3)

 前回、トリタン基準線源の鉛遮蔽容器内での計測結果に「遮蔽容器内調整値」というものを用いました。
いわゆるバックグラウンドというものです。これが分からないと試料の線量を求めることが出来ません。
今回は試料の線量を計測する際、どうしても必要となる計測環境の基本的なデータを集めます。


自己放射線量:

 試料の放射線のみを計測したくても、計測結果には試料以外の放射線量が含まれてしまいます。
前回、トリタン基準線源の計測は鉛遮蔽容器内で行ったわけですが、この結果には、

A.センサーの自己放射線量
B.遮蔽容器の自己放射線量
C.遮蔽容器を透過した環境放射線量

が含まれていますので、「計測値 = A + B + C + 線源の放射線量」 ですね?
なので、A,B,C の値が分からないと、線源からの線量を求めることが出来ません。

 環境の空間線量を測る場合でも、測定器の自己放射線量が含まれています。完全に放射線が皆無な状況で計測してみれば自己放射線量が分かるはずですが、そんな環境は実際にはあり得ません♪ 

そこで、複数の条件で実験を行い、関係式を立ててこれらの値をもとめてみました。


実験:

1.計測をおこなう環境の空間線量を計測します。
センサーの自己放射線量(Cself) + 空間線量(Caround) と表せます。
環境計測

2.鉛遮蔽容器内の線量を計測します。
Cself + 遮蔽容器の自己放射線量(Cbox) + 遮蔽容器の放射線透過率(τ) x Caround と表せます。
容器内環境計測

3.鉛遮蔽容器内で、トリタン基準線源を55mmの距離で計測します。
Cself + Cbox + τ・Caround + トリタンから55mmの位置での線量(Cth) と表せます。
トリタン計測(容器内)

4.センサーを鉛遮蔽容器内の蓋に密着させて固定し、トリタン基準線源を蓋の上(容器外)に置いて計測します(トリタン基準線源を55mmの遮蔽容器上蓋で遮蔽)。
Cself + Cbox + τ・Caround + τ・Cth と表せます。
トリタン計測(遮蔽)

5.センサーを容器上蓋に置いて計測します(下方からの環境放射線は容器に遮蔽され、その厚みは放射線の角度によって異なるので作図して面積比率から係数0.58を求めました)。
Cself + Cbox+(0.58 ・τ ^2 + 0.5)・Caround と表せます。
下面遮蔽


準備:

 実は、予備実験を行ったところポケットガイガーの自己放射線量が非常に大きな値を示したので一旦分解し、基板洗浄剤で念入りに洗浄を行いました(もともと何らかの放射性物質が付着していたのか?こちらで、取り扱いの際に付着したのかは今となっては分かりません)。そして、基板を電池と分離して利用できるようケーブルを延長し、β線の侵入を防ぐため、銅製(t=1mm)のケースに入れて基板全体をシールドしました。
ポケットガイガーの軽さは失われ・・・ずっしりと重くなってしまいましたが(笑)

(こんな感じ↓)
銅ケース

 電池とセンサー部を分けて全周銅製のケースにしたもうひとつの理由は、試料とセンサーの距離をなるべく小さくするために、2面とも利用したいと考えたからです。ポケットガイガーに限らずPINフォトダイオードには表裏がありません(放射線は表からも裏からも入射します)。

(こんな感じ↓)
検出範囲


結果:

 なるべく正確なデータをとるために、各実験は統計誤差率10%未満になるまで計測しました。特に、鉛遮蔽容器内は線量が低く、サンプルの収集に長時間を要するので、夜間に実施しました(笑)

(こんな感じ↓)
結果

この計測結果を、前述の式に当てはめて連立方程式を解くと・・・

鉛遮蔽容器の放射線透過率(τ) = 17.2 %
ポケットガイガーの自己放射線量(Cself) = 0.136
鉛遮蔽容器の自己放射線量(Cbox) = 0.022
計測環境の空間線量(Caround) = 0.414
トリタン基準線源の55mmでの線量(Cth) = 0.512

となりました。


検証実験:

 この結果が正しければ、トリタン線源を容器外の環境で計測した場合、
Cself + Caround + Cth = 1.06 
となるハズですので、検証実験を行ってみました。

検証実験

2時間ほど計測した結果は、上記シートにあるように 1.01 となり、計算値との差は約5%でした。


まとめ:

 鉛遮蔽箱のγ線透過率は17.2% で、環境放射線中のγ線を 1/5 以下に減衰出来ることが分かりました。
食品用放射線測定器をつくる(その1)では、IAEA の資料から 1/100 程度になると述べましたが、資料の値が α線、β線 を含んでいるため、γ線のみについて測定した今回の実験では前述の結果となります(α線・β線は遮蔽容器によって完全に遮蔽されます)。

 この結果から、容器の厚みを t とした時の遮蔽率(τt)= 0.9685 ^ t で表せると分かります。
例えば、厚みを 100mm とした時 τ = 0.9685 ^ 100 = 0.04 となり、環境放射線中のγ線を 1/25 に減衰出来ると分かります。

 鉛遮蔽箱の製作にあたって、鉛自体に含まれる放射性物質や容器の構造材として利用した鋼の放射線量が危惧されましたが、鉛遮蔽箱の自己放射線量(Cbox)=0.022 と小さな値となりました。

 ポケットガイガーの自己放射線量(Cbox)=0.136 でした。予備実験時の1/3 程になりましたが、それでも 13.6% と高い値です。基板の洗浄も念入りに行い、銅製ケースの製作にあたっても異物の混入には細心の注意を払ったのですが・・・。原因は分かりません。低線量の試料を測定するので、もう少し低い値であって欲しかったのですが。


 このような計測環境のバックグラウンドのデータは、どんな測定器を使うにしろ必要です。
バックグラウンドが分からない事には、せっかくの測定も、何を測っているのか? 意味不明となってしまいます。

 次回はこのデータを使って、実際に食品の放射線量を測定してみたいと思います。

では、また♪

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