日本のPCR検査は少なすぎるのか?

 コロナウィルス(COVID-19)が世界中で蔓延し、自粛で家に閉じこもる方も多いと思います。わたくしも、せっかく家にいるので当ブログを更新することにしました。

日本のPCR検査数は少なすぎる?: 

 さて、COVID-19 感染者の拡大速度や、感染者の死亡率には国によって大きく差があり、対応も様々です。特にPCR検査の対象範囲には大きく差があり韓国のようにドライブスルー検査で大々的に検査している国もあります。
日本では厚労省の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」の中で、

地方公共団体は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関す
る法律(平成 10 年法律第 114 号。以下「感染症法」という。)第 12 条
に基づく医師の届出により疑似症患者を把握し、医師が必要と認める検査
を実施する。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#houshin

とあり、あくまで医師が必要と認めた者に限って検査を行うことになっています。

そんな中、在日ドイツ大使館が「ドイツ外交官による非外交的な声明」を発表し、その中の

“日本における感染のリスクは真剣に評価することができません。実行されたテストの数が少ないため、報告されていない感染が多数発生していると考えられます。”

https://japan.diplo.de/ja-de/aktuelles/-/2327752

という部分が議論の的になっています。

日本の感染者数が少ないのは検査数が少なすぎるから」という主張です。

確かに、このグラフ(日経)を見ると日本の感染者数は他国に比べて顕著に少ないですね。


新規感染者数

https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-chart-list/

感染者数は、ドイツ 113525人に対して日本は 6071人 と19分の1程度。
死亡者数は、ドイツ2373人 に対して日本 121人 と20分の1程度です(2020/04/11現在)。

PCR検査数については、オックスフォード大学のサイトを見ると

 PCR数比較

https://ourworldindata.org/covid-testing

となっており、1000人当たりの検査数はドイツの15.97人 に対して日本は 0.35人です。
日本の検査件数はドイツの46分の1とかなり少ないですね。

この数字だけを見ると、「日本はわざとPCR検査をせず、実際の感染者数をごまかしているのはないか」と疑問に思う人が出てきても不思議はありません。SNS などを見ると、「検査をして欲しいのにしてもらえなかった」とか「政府はもっと積極的に検査をするべきだ」と言った意見が見受けられます。

PCR検査 とは?:

そもそもPCR検査とはどのように行い、判定するのか?調べてみました。

1.どのように行うか → 病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1
2.性能評価の方法 → 新型コロナウイルス(2019-nCoV)の遺伝子検査法の性能評価について
3.評価された方法 → 臨床検体を用いた評価結果が取得された2019-nCoV 遺伝子検査方法

上記、2.性能評価の方法を見ると、「陽性10検体・陰性15検体 について正しく検出できるか」を見て性能評価していることが分かります。従って、3.評価された方法を見るとそれぞれ10%刻みで評価されています。キットの性能評価に使用される検体数が少ないため、大雑把です。ややこしい話ですが、キットの性能評価欄をみると感度・特異度共に100%のものがほとんどですが、これは判定率ではなく上記評価法での評価です。判定率 100%の測定器など存在しません。判定率については後述の感度・特異度を考慮する必要があります。

次に、1.どのように行うか を見ると、検体の管理が別に規定されています(検体採取・輸送マニュアル)。まず検体の最適な採取位置からしてまだ良く解っていないようで、日本では下気道(のどの奥)から採取せよとありますが、オックスフォード大学が 記事 で引用している論文では鼻腔から採取した場合と比較しており、喉からの検体採取に否定的です。また、この論文では有症者の鼻から採取した検体から約73%程度が陽性判定されたことが分かります。
なんか、判定率が低いような気が・・・。

ということで、調べたところ → 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の⼿引き」 に解説がありました。

解説によると、PCR検査には感度(感染者を陽性判定する確率)と特異度(非感染者を陰性判定する確率)があり、それぞれどのくらいの確率なのかまだ分かっていないものの、有症患者における感度は 30〜70%程度,特異度は 99%以上と推定されています。感度が70%としても、10人のうち3人は陰性判定されてしまい、出歩いてしまうのでこの手引きでは感染が疑われると診断された人については隔離して後日再検査するよう推奨しています。

真の値を推定する:

すべての測定とは、到達することのできないある真の値を推定することである

Gordon Gilmore

Gilmore の言うように、おおよそすべての測定は統計的なものです。PCR検査も同様です。
そこで、検査対象を広げた場合に起こる本質的な問題を指摘しておきたいと思います。
と思ったら、そのものズバリ分かりやすく解説しておられる方を見つけたので、リンクを貼っておきます。

動画 →「むやみな検査を行ってはいけない理由、数学的に説明します

まとめ:

① PCR検査で「検査の時点で体内にウィルスがあるか?」は分かります。でも、あくまで検査の時点(サンプル採取時に)です。検査のために訪れた病院で感染するかもしれませんし、帰り道で感染するかもしれません。毎日検査するなんて非現実的です。

② 感染直後は体内のウィルスが微量なので判定できません(体内のウィルスがある程度増えないとPCR検査で正しく判定することは出来ない)し、無症状で気づかないうちに治ってしまった場合もすでに体内にウィルスがいないので検出されません。

③ 検査精度を上げるには、事前確率を上げておく必要があります。そのため、医師が症状などからコロナウィルス症を疑った場合に検査を行い診断のエビデンスの一つとするのです。それでもなお、現在のPCR検査の感度は低く、検査精度だけに頼るのは危険です。

これらの理由で、「医師が検査の必要を認識したものに検査を行う」という方針は理にかなっていると言えます。日本のコロナ対策は実に合理的かつ成果を上げていると思います。

経済活動再開のために抗体検査を:

一方で、「安心して経済活動を行いたい」「病弱な近親者にうつすのが心配」という気持ちも分かります。なので、今後日本でもNY市長の言うように「抗体検査」を充実した方が良いと思います。抗体検査は、「現在ウィルスと戦っている」「過去にウィルスと戦って現在は抗体がある」状態を判定することが出来ます。すでに抗体があるなら、安心して活動することが出来るようになりますし、抗体が無ければ警戒を怠らないように気を付ける必要があるとわかります。また、PCR検査の事前確率を向上するうえで役立つと思われます。

CDC の抗体検査に関する最新の見解へのリンクを貼っておきます。
この記事の中で、ペンス副大統領がCOVID-19抗体検査の開発を要請したことが書かれています。↓
Coronavirus (COVID-19) Update: Serological Tests

「経済活動再開のためには、抗体検査が重要」と認識していることが分かります。

ジョン・ホプキンス大学が公表している抗体検査情報。認証検査などの情報があります↓

Serology-based tests for COVID-19

追記:(2020/04/13)
オックスフォード大学がまとめている、COVID-19 関連のデータセットに PCR検査数のデータがありました。

To understand the global pandemic, we need global testing – the Our World in Data COVID-19 Testing dataset

このデータに基づいて、死亡者一人当たりのPCR検査数を計算したところ、

日本 :790 (2020/04/12 のデータ)
USA :120 (2020/04/11 のデータ)
ドイツ:499 (2020/04/05 のデータ)

となり、日本が最も検査数が大きい事が分りました。
日本のPCR検査の絶対数が少ないのは、「そもそも患者数が少ないから」と考えるのが自然なようです。

追記:(2020/04/14)
診断・PCR検査・抗体検査について、医師の方が分かりやすく解説されています。

新型コロナウイルスの科学

This entry was posted in 未分類 and tagged , . Bookmark the permalink.

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *